不動産の相続登記の義務化 ~令和9年3月までに手続きを~
- 真本 就平
- 2024年4月5日
- 読了時間: 5分
令和6年4月1日に、相続登記の申請が義務化されました。
このことは法務省が広報をしており、メディアでも取り上げられています。
では、不動産を相続した人々が実際にどのような義務を負うのでしょうか?
ここでは基本的な事柄を紹介します。
まず、法務省が広報の一環として、ホームページで紹介しています。 → リンク
画像はその一部になります。

今後、不動産を相続した人は、相続が起こったこと及び
不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、
所有権の移転の登記を申請しなければいけません。
ここで言う、相続による不動産の所有権の取得とは、
遺産分割協議の結果、特定の相続人が不動産を取得する場合に加え、
遺産分割が成立していないため、
相続人全員が不動産を相続分に応じて共有している状態も含まれます。
そのため、遺産分割がまだだと、相続人全員が登記申請の義務を負います。
遺言により不動産を取得する人が指定されていた場合は、
その人が3年以内に登記の申請をしなければいけません。
では、令和6年4月1日より前に、相続が発生して不動産を取得したことを
知った相続人は、どのような対応が求められるのでしょうか。
この答えは、義務化の対象から外れるのではなく、
知ってから3年以内に申請する義務があるのでもなく、
義務化開始から3年を経過する日に当たる令和9年3月31日までに
登記を申請しなければいけません。
そのため、義務化開始と言って慌てて手続きを取る必要まではありません。
この相続登記の義務化の理由は、所有者不明土地問題への対応と説明されています。
不動産の所有権移転の登記は、取得者の義務とされておらず、
相続では売買などと違って、登記手続きを取らなくても、
実際に不利益を受けることが少ないのが実情でした。
さらに、地方を中心に、土地の所有意識や利用の必要性が低くなったため、
不動産登記が放置されたまま相続が繰り返され、共有者がどんどん増加する上、
当事者に共有の意識さえ無い場合も出てきました。
そのため、土地が管理されずに放置されることが多くなり、
隣接する土地へ悪影響が発生する事態が生じてきました。
また、登記の名義人から現在の権利者を探し当てるのが非常に困難になるため、
公共事業や民間取引がうまく進まず、土地の利活用が阻害されてしまいます。
そこで、相続登記の義務化により、所有者不明土地が
これ以上発生するのを予防する効果が期待されています。
ところで、相続登記の義務を果たさなかった場合、どうなるのでしょうか。
法律では、10万円以下の「過料」に処すると、規定されています。
過料とは、国または公共団体が行政上の義務違反に対して制裁として
金銭的負担を課すもので、刑事事件の罰金とは異なります。
ただし、義務違反があると直ちに過料に処する仕組みとはされておらず、
登記官が義務違反を把握した場合、違反者に期間を定めて申請を催告します。
そして、この催告に応じず申請をしなかった場合に、
地方裁判所に事件を通知すると説明されています。
しかも、実際に義務違反が実際に生じるのは、令和9年4月になってからなので、
運用がどうなるかは、その後にならないと何とも言えません。
また、申請の義務を怠ったことに正当な理由がある場合は、
過料に処せられることはありません。
この正当な理由は、個別具体的に判断されますが、次のような例が上がっています。
・ 相続人が極めて多数に上り、書類収集や相続人把握に多くの時間を要する場合
・ 遺言の有効性や遺産の範囲などが争われている場合
・ 義務者自身に重病などの事情がある場合
・ 義務者がDVの被害者で、避難を余儀なくされている場合
・ 義務者が経済的に困窮し、登記費用を負担する能力がない場合
さて、相続登記を申請しようとする場合、
亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本などの書類を収集して、
法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要がありますが、
すべてを短期間でそろえるのが難しい場合もあります。
また、遺産分割協議が成立しない場合は、
法定相続分に従って所有権の移転登記をすることはできるのですが、
これと異なる遺産分割協議が成立すると、登記が二度手間になってしまいます。
そこで、「相続人申告登記」の制度が創設され、令和6年4月1日に始まりました。
これは、登記簿上の所有者に相続が開始したこと及び
自らがその相続人であることを法務局に3年以内に申し出ることで、
相続登記の申請義務を簡易に履行できるようにする制度です。
相続登記の申請に比べて、相続人が複数いる場合でも単独で申出が可能であり、
提出する戸籍謄本は、所有者の死亡と申出人との関係がわかる範囲だけで済み、
法務局へ支払う手数料もありません。
申出の後、申出をした相続人の氏名・住所などが登記に付記されます。
もっとも、相続人申告登記をすれば終わりではなく、
その後に遺産分割協議が成立して、不動産を相続する相続人が確定すれば、
その相続人は、遺産分割の日から3年以内に相続登記の申請をする必要があります。
また、相続人申告登記は不動産についての権利関係を公示するものではないため、
相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりするような場合には、
別途、相続登記の申請をする必要があります。
なお、以上の相続登記や相続人申告登記を業務として取り扱えるのは、
司法書士と弁護士に限られますので、具体的なご依頼はそちらへお願いします。