民事信託(家族信託)の基本的な仕組み ~認知症対策を例に~
- 真本 就平
- 2024年2月16日
- 読了時間: 3分
ご高齢の方が認知症などのため、財産の管理や処分を自らできない場合、
成年後見制度だけではなく、民事信託とか家族信託を利用する方法があると、
ここ数年、聞くことが多くなったように感じられます。
民事信託と言うのは、財産を第三者に託す「信託」の一種で、
その第三者が営業としてではなく、一個人の立場で引き受けるものです。
この民事信託は、家族信託とも呼ばれることも多く、
財産を託す相手が家族になる点に注目した呼び方ですが、
両者はたいてい同じことを指しています。
長らく古いままだった信託法が平成18年に改正されたことで、
翌19年に多様な形態や認められ、権利義務の整理が行われると、
民事信託について徐々に法律家の間で認識され始め、
平成29年頃にはマスコミも注目するようになったようです。
さて、民事信託は、不動産や金銭といった財産を持つ人が
その財産を託す相手と契約を結ぶことによって、成立します。
財産を持つ人は「委託者」と呼ばれ、信託契約の当事者として、
契約の内容を理解する判断能力を持っていることが前提になります。
財産を託された相手は「受託者」となり、財産の名義を自分に移し替えて、
管理や運用を行い、場合によれば処分もできます。
そして、運用などで得た利益を「受益者」に渡す義務があります。
この受益者を誰にするかは、信託契約で定めるのですが、
委託者が自分のために利益を受ける民事信託がほとんどです。

認知症対策に民事信託を活用する場合、
自宅や賃貸用の不動産なり金銭を対象にして、
子などの家族と予め信託契約を締結しておきます。
こうしておくと、本人(委託者)が認知症になっても、
家族(受託者)によって適切に財産を管理できます。
例えば、信託された金銭は、家族名義の預貯金口座を作っておき、
その家族の判断で自らお金を引き出せます。
また、建物の修繕を頼むときや賃貸不動産の借主と契約するとき、
本人ではなく、家族の判断や手続きで対応できます。
そして、家族(受託者)は、本人(受益者兼委託者)に対して、
自宅不動産なら、居住する利益を提供することになり、
信託された金銭や賃貸不動産からの賃料から、
生活費や介護施設の利用料を出していくことになります。
こうして、本人は安心して生活ができるわけです。
さらに、信託契約が終了するときに信託された財産を誰が受け継ぐか
信託契約で定めることができます。
そのため、本人(委託者)が亡くなったときに、
受託者である家族がそのまま財産を取得することも可能になります。
民事信託は、判断能力が低下したときの対策に特化したものではなく、
段階的な事業承継や財産の承継先を次々に指定する場合など、
信託契約にどのような内容を盛り込むか次第で、
様々な希望への対応が考えられる制度ではあります。
しかし、信託契約をどう設計するか、契約書に記載する文言をどうするかは、
法律に違反できないのはもちろん、法的な効果を十分に吟味する必要があります。
また、どこでどんな税金が課されるか検討するのが望ましく、
相続における遺留分との関わりも無視できません。
そのため、実際に信託契約を締結するに当たっては、
民事信託を得意とする専門家への依頼をお勧めします。
民事信託の様々な項目や活用方法については、
このブログで別の機会に紹介していきたいと思います。