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相続した不動産を時効で取得 ~所有意思と登記が難点~

更新日:2024年11月6日

 不動産を所有する人が亡くなった後、相続の登記手続きを一切しないまま、

何十年も放置されているという話を聞いたこと、あるいは、

実際に自分がその家族になってしまっていることは、少なくないのかもしれません。

 そんな中、亡くなった人の子の誰か、またはその子孫が、その不動産を

自分のもののように扱っていることもあるでしょう。このような場合、

その人が所有権を取得して、登記を自分の名義にすることが起こるのでしょうか。


 これを認める「取得時効」の制度が法律にあるにはあるのですが、

相続の場面では、認められるのは厳しいと言わざるを得ません。

 また、登記手続きを進めるにしても、困難さが付きまといます。


 ここでは、下の画像のような状況を設定して、説明いたします。

 Aが自宅の土地と建物を所有して登記も備えていましたが、Aの死後、

相続人のBDFが自宅について話合いも手続きも何もしない状態で、

Bとその子Cがその自宅に居住していました。その後、

Dが亡くなりEが唯一の相続人になった後、Bも亡くなりCが唯一の相続人になり、

Cが居住を続けたまま、20年が経過しました。



 民法では次の条件がそろったとき、本当は所有権を持っていないのに、

所有権を取得することが許されます。これが所有権の「取得時効」です。

・ 20年間 ・ 所有の意思をもって ・ 平穏に、かつ、公然と ・ 占有した


 最後の「占有」は、社会通念上、物を現実に支配している事実状態を要するため、

田舎の土地の様子をときどき見に行った程度では、占有には当たりません。


 問題になるのが2つ目の「所有の意思」です。

 これがあるかどうかは、占有者の主観なり内心でどう思っていたかではなく、

占有を始めた原因や占有に関する事情によって外形的客観的に判断されます。


 また、占有を継続している途中で所有の意思が生じたと認められるには、

自分に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示するか、

所有の意思があると判断される新たな原因により占有を始める必要があります。

 そのため、もともと所有するつもりでなかった物の占有を長期間続けても、

所有する気持ちが内心にとどまっていただけでは、取得時効は成立しません。


 相続も占有を始めた原因に含まれることは認められるのですが、

共同相続では本来、自らの法定相続分以外は、他の相続人(画像ならEF)が

持分を有するため、そうとは思えなかったような事情や行動が求められます。


 過去の裁判例では、次のような場合に「所有の意思」があると認めたことがあります。

単独に相続したものと信じて疑わず、

相続開始とともに相続財産を現実に占有し、

その管理・使用を専行してその収益を独占し、

公租公課も自己の名で負担してきており、

これについて他の相続人がなんら関心を持たず、異議を述べた事実もなかった。


 画像のCならば、自宅をAからBへ単独で相続できているとの

説明または遺言を親のBから受け、事実と異なるのに信じこんでしまい、

B死去のときから20年間、自宅に居住して固定資産税や公共料金を支払い続け、

EFがこうした状況に反発もしなかったような事情がないと、

取得時効が認められるのは厳しいと考えます。



 次に、Cが以上の条件を満たしても、ここまでは時効が完成するだけであって、

当事者が「援用」しないと、権利を取得する効果が発生しません。

「援用」とは、時効による利益を受けるとの意思を表明することを指します。

 そのため、CはEFに対して、自宅を時効で取得したことを伝える必要があります。

 一般的には内容証明郵便を利用することが多いでしょう。


 さらに、第三者に対しても権利を主張できるよう(民法では「対抗」と言います。)

不動産を取得したときに登記を備えるべきなのですが、

登記手続きにおいては、権利を取得する側と失う側との共同で申請するのが大原則です。

 不動産売買の登記で、買主に売主が協力するように、

取得時効による登記で、画像のCだけで処理できるのではなく、

EFにも書類の提出や実印押印を求めることになります。


 こうなると、権利を失うEFが反発して、協力要請に応じないことも考えられます。

 その場合、CはEFを相手に「所有権移転登記請求訴訟」を起こし、

勝訴の判決が確定してから、所有権の登記を実現することができます。


 もっとも、被告のEF側が初回の口頭弁論期日に出廷も答弁書提出もせず、

原告Cの主張がそのまま認められる「欠席裁判」で片付く場合もあるでしょう。

 なお、画像の場合、Cが占有を開始する前にDが死去したため、

DからEへの相続登記も必要になり、登記手続きが容易にできるわけではありません。



 実際の相続の場面では、祖父母ではなく、何世代も前の人の名義のまま

放置されることがよくあり、相続が複数回生じる中、それぞれの相続人が複数いると、

相続の権利を持つ人が何十人も出てくることが起こります。

 この場合、時効を援用する相手方を特定するのに手間と時間がかかり、

連絡先を把握するだけでなく、手続きの協力を要請するのも大変なことです。


 こうなるともはや、遺産分割協議として、相続の権利がある人の全員の合意を得て、

相続登記の手続きを進めたとしても、取得時効と苦労する程度が変わらないばかりか、

個別事情によっては円滑に進められるかもしれません。


 なお、登記の申請や手続きについて依頼をされるときは、司法書士に、

訴訟の代理や進め方について依頼されるときは、弁護士にご相談ください。

(不動産の価額が低いとき、認定司法書士が対応できる場合もあります。)


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