社会保険負担増への政府の支援は期間限定 ~年収の壁 支援強化~
- 真本 就平
- 2024年10月25日
- 読了時間: 5分
夫婦の片方が主な稼ぎ手となり、もう一方がパートタイムで働きに出る際、
結婚相手の扶養を受けられる範囲内になるよう収入を抑えるに当たり、
これ以上働くと税金や社会保険料に影響する限界のことは、
「年収の壁」と呼ばれています。
この「年収の壁」を意識せずに働ける環境づくりを支援するため、
令和5年9月に当面の対応として、政府はいくつか施策を打ち出しました。
この施策について、厚生労働省が「年収の壁・支援強化パッケージ」として
まとめており、ホームページで説明されています。 → リンク
画像は、その中で概要を説明したものになります。
また、「年収の壁」の社会保険面の現在の制度については、
前にこのブログで取り上げましたので、詳しくはそちらをご覧ください。 → リンク

現在、短時間労働者に対して、社会保険の適用を拡大する方向にあり、
この令和6年10月に、従業員数51~100人の企業に週20時間以上勤める人に
社会保険(健康保険と厚生年金)へ加入する義務が生じたのも、その流れです。
そのような中で、近頃は人手不足が社会問題になってきており、
パートなどで働く人がわざわざ労働時間を調整することを避けられるよう、
1年前から施策が始まっており、概要は以下のとおりです。
まず「106万円の壁」については、パートやアルバイトで働く人の手取り収入を
減らさない取組みを実施する企業に対して、支援が行われています。
その1つが「キャリアアップ助成金」にメニューが増えたことです。
この助成金は、雇用保険のうち事業主負担分を活用して、
非正規雇用の労働者の正社員化や処遇改善を促進するものです。
手続きとしては、計画書を作成して都道府県労働局またはハローワークに
提出してから取組みを始め、完了後に申請をして問題がなければ、
助成金を受け取る仕組みになっています。
「年収の壁」対策用のメニューは「社会保険適用時処遇改善コース」と呼ばれ、
従業員1人当たり最大2年半で50万円の助成を受けられることになっています。
対象となる従業員は、6カ月以上継続して雇用されている短時間労働者で、
計画書の提出後に新たに社会保険へ加入することが必要になります。
企業の取組みとしては、労働者本人負担分の保険料相当額の手当支給や賃上げ、
週所定労働時間の延長が挙げられます。
もっとも、助成金を受け取るのは従業員ではなく、手続きを通った企業であって、
給料や社会保険料の支払いが増加するのを補うことになります。
しかも、助成の金額や期間には限度があり、コース自体も今のところ、
令和8年3月までに新たに社会保険へ加入した労働者を対象にする予定になっています。
もう1つの施策は「社会保険適用促進手当」の仕組みができたことです。
社会保険に加入すると、給料の金額に応じて段階的に保険料が増加するのですが、
新たに社会保険に加入した従業員に対して、手取り収入を減らさないよう
手当を企業が支給した場合、それを「社会保険適用促進手当」と名付け、
保険料の算定対象から除外するようにしました。
具体的には、給与やボーナスとは別にこの社会保険適用促進手当を支給すると、
健康保険や厚生年金における標準報酬月額や標準賞与額の対象から外れます。
しかも、同一事業所内で同じ条件で働く他の労働者にも同じ水準の手当を
特例的に支給する場合には、同様の取扱いができます。
しかし、標準報酬月額が10万4千円以下の人しか対象にならず、
従業員ごとに、本人負担分の社会保険料に相当する額が上限になります。
そもそも、新たに社会保険に加入した従業員がいるからと言って、
企業がこの手当を支給する義務まではなく、任意に決めるものです。
また、この措置ができる期間は最大2年間であり、
2年を超えてから手当を支給しても、標準報酬月額などの算定に含めなければいけません。
しかも、あくまで当面の措置とされ、将来も存続する前提にはなっていません。
どちらの施策も、パートやアルバイトの勤務先が主体的に取り組むのが前提であり、
また、すでに社会保険に加入している人が単独で、恩恵を受けられるわけではありません。
次に「130万円の壁」に対しては、パートやアルバイトで働く人が
繁忙期で収入が一時的に増えたとしても、事業主がそれを証明することで、
引き続き扶養を受けていると認定することが可能な仕組みができています。
具体的には、パートなどが1年間で130万円以上の収入を得ていても、
繁忙期や他の従業員の代替などのために業務量が増加したからであり、
本来想定される年間収入が130万円未満であるときには、
政府が示した様式のような証明書を本人が勤める企業からもらいます。
そして、世帯主(結婚相手)の勤務先から
扶養に係る資格確認を受けるときや初回の認定のときに、
過去の課税証明書など通常提出が求められる書類と合わせ、この証明書を提出します。
これを受けて、世帯主(結婚相手)の勤務先が他の条件も含めて、
世帯主(結婚相手)の扶養を受けているかどうかを判断します。
しかし、こうした認定の仕方は、原則として連続2回までが上限になっています。
被扶養者の資格確認は、協会けんぽの場合を含め、たいてい年1回実施されるため、
このような取扱いは、2年間が限度であると想定されています。
また、やはり当面の措置とされており、将来も存続する前提にはなっていません。
なお、60歳以上の人や厚生年金を受給できる程度の障害者については、
180万円以上か未満かで判断されます。
最後に、配偶者手当への対応として、企業での見直しが進むように
政府は資料を公表するなどしています。
ただし、廃止や縮小となると、結婚相手である従業員にとって、
労働条件の不利益変更になるので、企業は慎重で丁寧な対応が求められます。
以上のことから、社会保険に関する負担増加に対する政府の施策は、
2年間程度の対応に限られ、企業側の態度に影響され、対象者も限定されるため、
パートなどの人が多く働くのを妨げるような「壁」は、今も存続すると感じられます。
なお、各種社会保険や助成金に関する個別の相談は、
所属する保険などの担当部署または社会保険労務士にお願いします。