遺産分割協議前でも預貯金を引き出せる ~上限額は低く設定~
- 真本 就平
- 2024年12月27日
- 読了時間: 4分
身内の方がお亡くなりになってしまい、お葬式を執り行った後、
これに関する費用をご家族の方が急いで支払うよう迫られることは、よくあります。
ほかにも、公共料金や税金をきっちりと支払う必要がある場合や
ご家族が生活費を亡くなった方に頼っていた場合もあるでしょう。
こうしたまとまったお金がご家族の手元になく、資金繰りに苦しむ一方で、
亡くなった方の預貯金には、それなりの金額が残っていることも起こりえます。
このようなとき、預貯金の全額とは言わずとも、必要に迫られた分だけでも、
直ちに払い戻しを受けることができれば、ご家族は助かることでしょう。
そのような希望に対応できるよう、現在では、
「預貯金の仮払い制度」が存在しています。
次の画像は、法務省がホームページで公表している説明資料です。 → リンク

もしも相続人が一人しかいなければ、その人が銀行などの金融機関へ
戸籍謄本など必要な書類を提出すれば、預貯金の残高全額を引き出すことは可能です。
しかし、相続人が複数いる場合、遺産分割協議書を提出するなど、
相続人全員が了承していることについて、金融機関が求める手続きを経ないと、
預貯金を引き出すことはできないのが原則です。
実は、相続における預貯金の取扱いには、変遷がありました。
共同相続人が金融機関から金銭を受け取る権利は、相続分に応じて
金額を分けることができ、相続人それぞれが権利を行使できるとの考えを基に、
(この考えを専門的には、預貯金債権が可分債権である、と言います。)
各相続人が自己の相続分に応じた金額の払戻しを、法律上当然に請求できるのであり、
また、預貯金が遺産分割の対象にはならないのが、以前の裁判所の立場でした。
とは言え、金融機関の実務においては、預貯金の払戻しに当たって、
相続人間の争いに巻き込まれるのを避ける目的により、
金融機関側が遺産分割の成立または相続人全員の同意を求める対応を取り、
相続人が金融機関を相手に裁判を起こすと、裁判の進行により払戻しに応じていました。
法律的には、相続人の合意があれば、預貯金を遺産分割の対象とすることは
認められるので、金融機関のこうした運用が続いていました。
しかし、平成28年12月に最高裁判所がこれまでとは異なる考え方を示しました。
従来の考え方では相続人間に不公平が生じた事案において、
預貯金が遺産分割において具体的な調整に役立つ機能があることを考慮して、
相続人の合意が無くても、遺産分割の対象に含まれることになりました。
その結果、預貯金の払戻しでは遺産分割の成立が前提になるため、
相続人が単独で払戻しを受けることができなくなりました。
それでは、必要な支出に対応できない不都合が生じるため、
民法が改正されて、令和元年7月に預貯金の仮払い制度が始まりました。
この制度により、他の相続人の同意が無くても、
それぞれの相続人が単独で預貯金の一部の払戻しを受けられます。
もっとも、かつてのように法定相続分丸々とはいかず、
当面の生活費や葬儀費用の支払いなどに必要な分として、
上限が設定されており、次の金額のうち低い方までが認められます。
・ 口座ごと、死亡時の預貯金残高 × 3分の1 × 相続人の法定相続分
・ 同一の金融機関に対しては、150万円
例えば、ある信用金庫に600万円の普通預金、
別の銀行に1,200万円の定期預金を預けていた人が亡くなり、
相続人が子2人の場合、子1人が単独で払戻しを受けられるのは、
・ 信用金庫 → 600万円×1/3×1/2=100万円
・ 銀行 → 1,200万円×1/3×1/2=200万円 >150万円
合計で250万円となります。
実際に金融機関で、手続きがどうなり、どんな書類が必要になるかは、
それぞれの担当窓口に確認をする必要があります。
通常は、預貯金通帳、払戻しを受ける人の印鑑証明書や本人確認用の書類に加え、
口座名義人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本と
相続人全員分の戸籍謄抄本を提示することになるでしょう。
さて、公共料金や税金が口座から自動で引き落とされている場合、
その口座の金融機関に、名義人が亡くなったことが伝わらない限りは、
引落しが続く状態になり、相続人に請求されることにはなりません。
さらに、キャッシュカードが相続人の手元にあり、暗証番号がわかっていれば、
金融機関の約款上は問題が生じるでしょうが、実態としては引出しが可能ではあります。
もっとも、一人の相続人が亡くなった人の財産を勝手に処分したことになるので、
記録を残して他の相続人へ説明ができるようにするとともに、
遺産分割協議においてきちんと調整がなされるのが好ましいです。
なお、画像で紹介されている仮分割の仮処分については、
家庭裁判所が取り扱う手続きのため、ここでは紹介いたしません。